
令和4年度の税制改正をポイントを絞って解説!
令和4年度の税制改正では、「成長と分配の好循環の実現」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトに賃上げに係る税制措置の抜本的見直しや住宅ローン控除の要件見直しなどが行われました。ここでは主だったものを取り上げ、解説します。
目次[非表示]
- 1.法人課税
- 1.1.賃上げ促進税制
- 1.2.オープンイノベーション促進税制
- 1.3.減価償却資産の損金算入制度の対象資産の見直し
- 2.個人所得課税
- 2.1.住宅ローン控除の見直し
- 2.2.大口株主等の要件見直し
- 2.3.上場株式等の配当所得等の課税方式
- 3.納税環境の整備
- 3.1.税理士試験の受験資格の緩和
- 3.2.懲戒逃れの抑止
- 3.3.事務所の複数設置
- 3.4.記帳義務を履行しない納税者への対応
- 3.5.財産債務調書制度の見直し
- 3.6.電子帳簿保存法
- 4.まとめ
法人課税
まずは法人課税について、説明いたします。
賃上げ促進税制
民間企業の積極的な賃上げを促進するために賃上げや人材投資を行った企業に対して税額控除の適用を設けることとなりました。
企業の規模によらず、教育訓練費に係る税額控除の適用を受ける場合、教育訓練費の明細を記載した書類を保管することが義務付けられるようになった点に注意が必要です。
中小企業
雇用を守りつつ、積極的な賃上げと人材投資を促進するために控除率の上乗せ要件の見直しと、適用期限の延長が行われた。
今回の改正では、適用要件に変更はなく、控除率の見直しが行われました。控除率を最大40%に引き上げることに加えて、控除税額の上乗せ要件のうち、「経営力向上計画の認定」に係る要件の廃止がされることとなりました。
要件を満たさない場合でも継続雇用者に対する給与等が増加した場合には、「給与等の支給額が増加した場合の税額控除制度」に該当する可能性があることに注意が必要です。
出典 https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei22_pdf/zeisei22_03.pdf
大企業
「新規雇用者に支給する給与の増加割合」を適用要件としていたものを、「継続雇用者に支給する給与の増加割合」と改め、対象についても「雇用者全体の給与総額の対前年度増加額」としたうえで、対前年度増加額の30%を控除できるものとすることとなりました。
出典 https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei22_pdf/zeisei22_03.pdf
なお、資本金が10億円以上かつ、従業員数が1,000人以上の企業については、マルチステークホルダーに配慮した経営への取り組みを宣言することも要件に含まれています。
こちらについては、様式に決まりがあるため、詳しくは国税庁のページにある「大企業向け「賃上げ促進税制」御利用ガイドブック」と「大企業向け「賃上げ促進税制」よくある御質問Q&A集」を確認してください。Q&A集では、継続雇用者の定義についても解説されています。
>>経済産業省「令和4年度税制改正「賃上げ促進税制」についてのガイドブック・よくある御質問・パンフレット」
オープンイノベーション促進税制
対象となる一定のベンチャー企業の設立経過年数の要件や特別勘定の取り崩しが不要となる株式保有期間などが見直され、適用期限についても2年間延長(令和6年3月31日)されました。
【適用対象となる一定のベンチャー企業の株式】
オープンイノベーション性等の要件を満たすベンチャー企業に対する出資の払込みとして経済産業大臣が証明(※)したものにより取得した株式。
※ 出資後に企業から提出を受けた資料を、経済産業省において確認し、出資した年及び特定期間(出資後5年間【改正後:3年間】)中、経済産業大臣が証明。
(出典 財務省「令和4年度税制改正 3法人課税 (2)オープンイノベーション促進税制の拡充」)
出典 https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei22_pdf/zeisei22_03.pdf
減価償却資産の損金算入制度の対象資産の見直し
以下の3つの制度について、対象資産から貸付(主要な事業として行われるものを除く。)の用に供した資産を除外することとなりました。
併せて、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の適用期限が2年延長されています。
- 少額の減価償却資産の取得価額の損金算入制度
- 一括償却資産の損金算入制度
- 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
個人所得課税
住宅ローン控除の見直し
ローン返済の利息支払い額より控除額が大きくなっていた問題に対応するため、以下の改正が行われました。ローン控除の適用期限についても4年延長されています。
また、カーボンニュートラルの実現に向けて一定の要件を満たした住宅については、控除の限度額と期間を延長することとなりました。
大口株主等の要件見直し
個人株主としての持株割合が3%未満であっても、同族会社である法人との合計で3%以上となる場合には、支払いを受ける配当についても総合課税の対象とすることとなり、上場株式等の譲渡損失との損益通算や申告不要制度の適用も受けられなくなりました。
また、上場株式等の配当等の支払いをする内国法人は、株式等保有割合が1%以上となる対象者の氏名、個人番号および株式等保有割合等を記載した報告書を、支払いの確定した日から1月以内に当該内国法人の本店または主たる事務所の所在地の所轄税務署長に提出することが義務付けられました。
上場株式等の配当所得等の課税方式
個人住民税において、上場株式等の配当所得等の課税方式を所得税と一致させることとなりました。令和6年度以降の個人住民税について適用されます。
納税環境の整備
税理士試験の受験資格の緩和
多様な人材の確保を目的として税理士試験の受験資格が緩和されることになりました。
出典 https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei22_pdf/zeisei22_05.pdf
懲戒逃れの抑止
税理士が懲戒処分を受ける前に自主的に廃業することで、懲戒を逃れる「懲戒逃れ」について、在職期間内に税理士法違反行為を行った元税理士に対して財務大臣が決定をすることで、懲戒処分に準じた措置を講じることができるようになりました。
事務所の複数設置
外部に対する表示で税理士事務所が明確になっていれば、業務を行う場所が複数あったとしても、税理士事務所の複数設置禁止の規定には抵触しないこととなります。
また、使用人等の業務の適切性を確保するため、税理士が使用人を監督するうえでの留意点を明確にする取組を進めるものとしています。
記帳義務を履行しない納税者への対応
税務調査において証拠書類を提示せずに簿外経費を主張する納税者に対応するために、必要経費不算入・損金不算入の措置を講じることとなりました。
また、税務調査において帳簿の提出が求められた場合、以下のいずれかに該当する場合は、過少申告加算税・無申告加算税の割合に10%加重されることとなりました。
- 不記帳・不保存であった場合(提出をしなかった場合)
- 提出された帳簿について、収入金額の記載が不十分である場合
→基本的には5%の加重だが、記載が著しく不十分である場合は10%の加重となる。
(出典 財務省「令和4年度税制改正」)
財産債務調書制度の見直し
提出期限の変更と提出義務者について以下の通り変更されました。
財産債務調書の提出義務者について、改正前の提出義務者に加えて、その年の12月31日に所有する財産価値の合計額が10億円以上となる者についても提出義務が生じることとなりました。
また、提出期限についても改正前は翌年の3月15日となっていたものが、翌年の6月15日に変更となりました。
出典 https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei22_pdf/zeisei22_05.pdf
電子帳簿保存法
電子取引の電磁的記録保存に係る宥恕措置が設けられ、一定の要件を満たせば、令和5年12月31日まで紙による保存が認められることとなりました。
出典 https://www.mof.go.jp/tax_policy/20211228keikasoti.html
まとめ
令和4年度の税制改正では、「成長と分配の好循環の実現」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトに、賃上げに関する税制措置の抜本的な見直しや、オープンイノベーション促進税制の拡充、住宅ローン控除の見直し、納税環境の整備が行われました。
本記事で解説した以外では、ガス供給業に係る法人事業税の課税方式の見直しや大法人に対する法人事業税所得割の軽減税率の見直し、土地に係る固定資産税等の負担調整措置なども併せて行われているので、詳しくは財務省の下記のページから確認してください。