
インボイス制度の変更点と準備の要点 第4回 ~インボイス制度下での仕入税額控除~
皆さん、こんにちは。
Mikatus(ミカタス)の中尾です。
インボイス制度の下では、本則課税の事業者が行う仕入税額控除の要件も変わります。もっともインパクトのある変更点は、この連載第1回でもみてきたように、インボイス発行事業者以外からの課税仕入では原則仕入税額控除の適用が受けられなくなる点です。その他、帳簿のみの保存で仕入税額控除できる取引についても、現行制度とは変わりますので注意が必要です。
今回は、買手の課題となるインボイス制度下での仕入税額控除についてみていきましょう。
仕入税額控除と経過措置
インボイス制度下での仕入税額控除は、一定の記載事項を満たした帳簿およびインボイスなどの請求書・領収書等の保存が要件になります。
免税事業者などインボイス発行事業者以外の事業者は、インボイスや簡易インボイスを発行できませんので、これらの事業者からの課税仕入ではインボイスの交付を受けることができません。そのため仕入税額控除の要件を満たせず、これらの事業者からの課税仕入では仕入税額控除が原則できなくなります。
ただし、インボイス制度開始から一定期間は、インボイス発行事業者以外からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。
経過措置を適用できる期間および仕入税額とみなされる割合は以下の通りです。
[表1]経過措置を適用できる期間および仕入税額とみなされる割合
期 間 |
割 合 |
令和5年10月1日~令和8年9月30日 |
仕入税額相当の80% |
令和8年10月1日~令和11年9月30日 |
仕入税額相当の50% |
期間に応じた経過措置の内容をまとめたものが以下の図になります。
[図1]課税仕入れに係る経過措置 国税庁「適格請求書保存方式の概要」より作成
インボイス制度開始後にインボイス発行事業者以外からの課税仕入がある場合は、まずインボイス発行事業者との取引か否かをきちんと区別できるように準備しておく必要があります。継続的に取引している事業者であれば直接インボイス発行事業者かどうか確認するなど、どの取引が経過措置適用となるか事前に把握するようにしておきましょう。
一方、経費精算などで出てくる領収書などの取引先は継続的な取引先ではないケースもありますので、この場合は受領した領収書などに登録番号があるかどうか確認する必要があります。これをきちんと確認するための体制も準備する必要があります。
帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる取引
現行の制度では「3万円未満の課税仕入れ」や「請求書の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるとき」は、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除ができますが、インボイス制度ではこれらの規定は廃止されます。
この規定の廃止については、インパクトの大きい変更と受け止める記事なども見かけますが、もともとこの規定は消費税法だけのものであり、法人税法や所得税法ではこのような規定はありません。そのため、事業者は通常3万円未満の請求書や領収書も保存していたはずですから、これを今後も継続していけば良いのです。
こうした規定が廃止される一方で、以下の取引については、帳簿のみの保存で仕入税額控除ができることになっています。
[図2]帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる取引
①⑦⑧は取引の対象となる商品やサービスなどを提供する事業者がインボイス事業者の場合でも、インボイスの交付義務が免除される取引なので、買手側は帳簿の記載のみで仕入税額控除が認められます。
インボイス制度では、一定の事項を記載した帳簿およびインボイスなどの請求書等の保存が仕入税額控除の要件ですが、帳簿への記載事項は以下の通り現行の制度と同様とされています。
- 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
- 課税仕入れを行った年月日
- 課税仕入れに係る資産又は役務の内容(課税仕入れが他の者から受けた軽減対象資産の譲渡等に係るものである場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等に係るものである旨)
- 課税仕入れに係る支払対価の額
インボイスなどの請求書等を保存する場合はこれらの記載があれば良いのですが、上記の①~⑨に該当する取引の場合は次の事項の記載が追加で必要となります。
- 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入れに該当する旨
例)①に該当する場合「3万円未満の鉄道料金」など - ②および⑦の取引の場合、仕入れの相手方の住所又は所在地
③~⑥の取引については、古物営業法、質屋営業法又は宅地建物取引業法の定めにより業務に関する帳簿等に相手方の住所等を記載するとされている場合はそれに従う必要があります。
③~⑥のように特定の事業者が行う取引を除くと、通常の事業者で帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる取引は5項目となります。このなかでも、②や⑦のように「仕入れの相手方の住所又は所在地」の記載が必要となる取引については、現状どのような取引があるのか把握し、経費精算などで報告されるものが該当する場合は、従業員にも周知して所在地等を帳簿に記載できるように準備しておきましょう。
買手として準備できること
今回は本則課税の買手の立場で課題となる仕入税額控除の変更点と準備の要点についてみてきました。
令和5年10月1日以降も免税事業者などインボイス発行事業者以外の事業者からの課税仕入れを継続する場合は、インボイス発行事業者からの課税仕入れと区分して経理処理できる体制の検討が特に必要です。また、受領した請求書や領収書をOCRなどで読み取って、これらの相手先がインボイス発行事業者かどうか判別するようなシステムと会計システムが連動していれば、それだけ負担が軽減できます。
インボイス制度導入まで、あと一年あまりとなりました。制度導入直前になって慌てなくても良いように、今から必要な準備を進めていきましょう。