ASaaS Clip
日々の業務に役立つ情報をご紹介します。
catch-img

インボイス制度の変更点と準備の要点 第3回 ~インボイス発行事業者の義務とインボイス等の記載事項~

皆さん、こんにちは。
Mikatus(ミカタス)の中尾です。

インボイス発行事業者になると、売手としてインボイス等の交付は義務となります。
この義務という規定もインボイス制度の新しい点です。インボイス発行事業者になるためには申請登録が必要ですが、その登録自体が任意なのはインボイス発行事業者に課される義務があるためです(インボイス発行事業者の登録については前号を参照ください)。

今回は、インボイス発行事業者の義務の概要とインボイス等の記載事項をみていきましょう。

目次[非表示]

  1. 1.インボイス発行事業者の義務の概要
  2. 2.インボイス等の記載事項
    1. 2.1.インボイス・簡易インボイスの記載事項
    2. 2.2.返還インボイスの記載事項
    3. 2.3.修正インボイスへの対応方法
  3. 3.インボイス等に記載する消費税額の端数処理


インボイス発行事業者の義務の概要

インボイス発行事業者に課される義務は以下のようなものです。

[図1]インボイス発行事業者の義務 国税庁「適格請求書保存方式の概要」より作成

ここでいう適格簡易請求書(以下、簡易インボイス)とは、インボイス発行事業者が小売業・飲食店業・タクシー業など不特定かつ多数の者に対して課税取引を行う場合に交付する、インボイスの記載事項を簡易にしたレシートや領収書等のことです。
今でも取引に際して買手に請求書や領収書等を交付していますので、インボイスや簡易インボイスは、それらの書類が記載事項を満たすように準備していくことになります。
また、適格返還請求書(以下、返還インボイス)も、実際に返品等があった際に何らかの書類のやりとりが行われているでしょうから、インボイス同様、記載事項を満たすように準備すれば良いことになります。

修正した適格請求書(以下、修正インボイス)はどうでしょうか?
誤りに気づいた場合は、インボイス発行事業者が誤りを正した修正インボイスを作成して再交付することになります。
これまでは買手がインボイスの誤りを修正して売手に確認するような例もあったようですが、「写しの保存」が売手のインボイス発行事業者の義務であることを考慮すると、自ら修正インボイスを作成、交付するとともに、同じ誤りが起こらないように対策することが求められそうです。


インボイス等の記載事項

インボイス・簡易インボイスの記載事項

次の図はインボイスおよび簡易インボイスの記載事項と実際の記載例です。
赤い下線の項目が、現行の区分記載請求書の記載事項に追加されます。

[図2]インボイス・簡易インボイスの記載事項 国税庁「適格請求書保存方式の概要」より

インボイス等では様式や書類名称は特に定められていませんので、現在作成している請求書やレシートなどの様式にインボイスや簡易インボイスで追加になる項目を記載できるように準備しておきましょう。
なお、記載事項の説明では「税率ごとに区分された・・」といった説明がされていますが、10%(または軽減8%)の取引しかない場合でも、当然適用税率や消費税額等の記載は必要です(詳しくは 国税庁「インボイス制度に関するQ&A 問60」 参照)。

また、インボイスの記載事項は、一つの書類ですべての記載事項を満たす必要はなく、次の例のように請求書と納品書など関連が明確な複数の書類全体で記載事項を満たしていれば、これら複数の書類を合わせて一つのインボイスとすることもできます。

[図3]複数の書類で一つのインボイスとする例 国税庁「適格請求書保存方式の概要」より


返還インボイスの記載事項

次の図は返還インボイスの記載事項と記載例です。

[図4]返還インボイスの記載事項と記載例 国税庁「適格請求書保存方式の概要」より

[図4]の記載例は販売奨励金という名目の「対価の返還」ですので、③の「対価の返還等の基となった取引を行った年月日」を記載できますが、日々返品があり個々の返品された商品の販売日の特定が難しいケースなどもあります。そのようなケースでは、③について「◯月販売分」といった記載でも良いとされていますので、自社の状況によって記載の仕方を検討しておきましょう。(詳しくは 国税庁「インボイス制度に関するQ&A 問50」 参照)

また、継続的に取引があり、毎月請求書を交付している取引先であれば、翌月の請求書に前月分の返品・値引き等を記載する方法も認められています(詳しくは 国税庁「インボイス制度に関するQ&A 問51」 参照)。
取引先との関係で、返還インボイスが必要なケースが想定されるのであれば、返還インボイスへの対応も準備しておきましょう。


修正インボイスへの対応方法

修正インボイスは交付したインボイスに誤りがあった場合に交付するものです。修正インボイスを交付することになると、売手のインボイス発行事業者も手間ですが、買手の取引先にも手間を掛けさせることになります。
システムでインボイスを作成する場合は、あらかじめ記載事項を正しく設定しテストしておくなどして、誤りのないインボイスを作成できるようにしておくことが一番の対策になります。
それでも人為的なミスで金額などの間違いは起こり得ますので、修正インボイスへの対応方法も考えておく必要があります。

修正インボイスの交付方法は、国税庁の資料では、以下の二つの方法が例示されています(詳しくは 国税庁「インボイス制度に関するQ&A 問30」 参照)。

  • ​​誤りがあった事項を修正し、改めて記載事項の全てを記載したものを交付する方法 
  • ​​当初に交付したものとの関連性を明らかにし、修正した事項を明示したものを交付する方法 

いずれの方法をとっても、インボイス発行事業者は当初交付したインボイスの写しと修正インボイスの写しの両方を保存する必要がありますのでこの点は注意が必要です。


インボイス等に記載する消費税額の端数処理

インボイス等に記載する「税率ごとに区分した消費税額等」の端数処理については、一つのインボイスにつき税率ごとに一回の端数処理を行うとされています。また、端数処理の方法は切り捨て・四捨五入・切り上げ、いずれでも良いとされています(以下では切り捨てを前提にしています)。

次の記載例の「認められない例」のように明細行ごとに消費税額を計算し、その消費税額を合計したものをインボイスの記載事項にすることはできなくなります。

[図5]端数処理_認められる例・認められない例 国税庁「適格請求書保存方式の概要」より

現在、この「認められない例」のような方法で消費税額の計算を行って請求書を作成・交付している場合は、インボイス制度施行までにシステム改修等を行って、端数処理の回数を制度に合わせる必要があります。
この端数処理のルールについては複数の書類で一つのインボイスにする場合でも注意が必要です。

再掲[図3]複数の書類で一つのインボイスとする例 国税庁「適格請求書保存方式の概要」より

[図3]のように取引の都度納品書を発行し、一ヶ月分の取引をまとめて請求書を作成するケースは、事業者間の取引ではよくあるケースだと思われます。
[図3]のケースは納品書では消費税額を計算せず、請求書で計算しますので、一月分まとめて一回だけ端数処理することになります。逆に納品書で消費税額を計算する場合は一つの納品書ごとに端数処理することになり、まとめ請求書に納品書で計算した消費税額の合計を記載しても、その消費税額はインボイスの記載事項とは見做されません(詳しくは国税庁「インボイス制度に関するQ&A 問55」 参照)。

売手としてどちらの方法を取るかは、現行の納品書・請求書をどのように運用しているかを踏まえ、移行しやすい方法を取れば良いでしょう。ただし、端数処理の回数の違いにより、納品書単位で端数処理する方が消費税額が少なくなります。また[図5]の例のように、税抜金額をベースに消費税の計算をしている場合は、最終的に請求する税込金額も納品書単位の方が少なくなります。

一円未満の端数処理ですので、大きな差異にはなりませんが、まとめ請求書で消費税額を計算、端数処理するか、納品書で消費税額を計算、端数処理するかは、買手である取引先にも通知し、確認してもらうようにした方が良いでしょう。


今回は現行の請求書等からインボイス等で変更となる点とこれに対応するために必要な準備についてみてきました。

現在システムで請求書等を作成している場合は、そのシステムのインボイス対応の内容を確認しておきましょう。また、Excelで作成している場合や手書きの場合は、インボイス作成業務を効率化するためにシステムの活用も検討しましょう。

税理士の方々は、これまで事業者の請求書等作成業務まで関与されることはあまりなかったかと思われますが、インボイス発行事業者となる事業者に対してはできる限りのアドバイスをして、スムーズにインボイス対応できるように指導していただきたいと思います。

関連記事

Documents

人気ダウンロード資料

A-SaaS[エーサース]サービス概要資料
給与関連業務の忙しさをクラウド給与・年調システムで解消!

Ranking

人気記事ランキング

ページトップ