
税理士が独立に失敗する5つの原因と対処法!開業までの手順もあわせて解説
税理士が独立に失敗することは珍しいことではありません。一昔前は机に向かっていれば客が集まると言われていた税理士業界も現在では過渡期を迎えています。そこでこの記事では独立した税理士が陥りがちな5つの失敗と対処法を解説し、開業の手順を解説します。
目次[非表示]
- 1.独立した税理士が陥りがちな5つの失敗と対処法
- 1.1.営業力不足による失敗
- 1.2.過度な業務の受注
- 1.3.価格設定の失敗
- 1.4.業務ミスによる失敗
- 1.5.人間関係のもつれによる失敗
- 2.税理士が独立するメリット
- 2.1.高収入が期待できる
- 2.2.自分の興味に合わせた仕事ができる
- 2.3.働く仲間を選べる
- 2.4.ワークライフバランスの実現
- 3.税理士が独立するデメリット
- 3.1.収入が安定しない
- 3.2.責任が重い
- 3.3.労働基準法の適用外になる
- 4.税理士が開業するまでに必要な手順
- 5.開業までに準備すべきこと
- 6.開業後に実行すべきこと
- 6.1.友人や知人への挨拶
- 6.2.他業種のセミナーや飲み会への参加
- 7.まとめ
独立した税理士が陥りがちな5つの失敗と対処法
独立した税理士にはいくつか陥りがちな失敗があります。ここでは過去に実際に起きたケースをもとに、5つの失敗とその対処法を解説します。
営業力不足による失敗
顧問先を開拓できないことは独立した税理士が最も陥りがちな失敗の一つです。ある程度の規模になった税理士事務所では紹介で顧問先が増えていくため、勤めていた事務所で営業職をしていたという人は少ないでしょう。
税理士が顧問先を開拓していくうえで大切なことは、すでに方法を確立している先輩税理士のやり方をよく研究しておくことです。税理士は基本的に地域密着型の商売であるため、別の地域で通用した方法を持ち込むことで上手くいく可能性があります。
可能であれば、実際に先輩の営業に同行させてもらい、営業方法をヒアリングしておくようにしましょう。
過度な業務の受注
開業当初に仕事を受注し過ぎるのもよくある失敗の一つです。
開業してすぐの頃は人材の募集をかけてもなかなか応募が来ることはないので、自分一人でこなせる業務量がそのまま事務所の限界になることを覚えておきましょう。
また、資料回収などの事務作業も自分でこなさなければいけないため、繁忙期の業務量を基準に自分が無理なくこなせる業務量に調整しておくことが大切です。
価格設定の失敗
顧問先獲得のために顧問料を安く設定しすぎるのもよくある失敗の一つです。顧問料を安く設定しすぎると、それをカバーするために大量の件数をこなさなければならなくなるため、休むための十分な時間がとれなくなってしまいます。
無理なく仕事を続けていくためにもできるだけ割引はせず、無理な要求も断るようにしましょう。
業務ミスによる失敗
税理士と依頼者は法的には委任契約で結ばれており、ミスをした場合は委任契約の受任者としての義務に違反したとして損害賠償責任が発生する場合があります。
平成22年12月8日の東京地裁の判決によれば、税理士は税務に関する専門家として高度の注意をもって委任事務を処理する義務を負うものとされており、注意義務の程度が重いものと解説されています。
業務に当たる際は、
- 法令や通達などの確認・調査義務
- 説明・助言義務
- 事実の調査・確認義務
などが善管注意義務として発生することを押さえておきましょう。
損害賠償の備えとしては日本税理士会連合会の税理士職業賠償責任保険がありますが、無申告加算税や延滞税などは保険の対象外となることを押さえておきましょう。
また、事前の税務相談についても特約に加入しなければ対象外となるため、保険のみを頼りにするのは得策ではありません。訴訟を起こされること自体が事務所の悪評につながることも考慮すれば、極力ミスが起こらない体制を作ることが大切です。
人を雇ってダブルチェックができるようになるまでは、時間をおいて再度の見直しをするなどの工夫が求められます。
人間関係のもつれによる失敗
事務所内の人間関係が悪化することで事務所が内部崩壊することもあります。個人事務所や小規模の事務所は大規模な事務所と比べると、どうしても待遇面で劣ってしまうため、不満が出やすい環境だといわれています。人間関係のもつれは業務の進捗に影響するばかりか、ときには足の引っ張り合いにも発展しかねないため、常に注意をしておくようにしましょう。
事務所がある程度の規模になってくれば、自分とスタッフの間に立って関係を調整してくれるナンバー2を置くのも良いでしょう。
税理士が独立するメリット
税理士として独立すれば、高収入が期待できるのはもちろん、自分の興味や適性に合わせて仕事ができたり、働く仲間を自分で選べるといったメリットがあります。ここではそれぞれのメリットについて詳しく解説していきます。
高収入が期待できる
税理士として独立するうえで最も大きなメリットは高収入が期待できることでしょう。
日本税理士会連合会が平成26年4月に実施した「第6回税理士実態調査報告書」によれば、税理士の平均年収は補助税理士(所属税理士)597万円、社員税理士886万円、開業税理士744万円となっています。
平均年収では開業税理士は社員税理士に劣りますが、社員税理士になるためには勤続年数に加えて事務所内での出世競争に勝ち抜くことも求められることを考慮すれば、若くても自分の実力次第で高収入が期待できるのが開業税理士の魅力と考えられます。
自分の興味に合わせた仕事ができる
税理士として独立すれば、自分の興味や適性に合わせて仕事をすることができます。好みに合わせて業種や業界を選べるのはもちろん、提供するサービス内容も自分で調節することができるので、自分が本当に良いと思ったサービスを提供することができるでしょう。
働く仲間を選べる
一緒に働く仲間を自分で選べることも独立することのメリットです。採用基準も自分で選ぶことができるので、自分と反りの合う人を雇用できれば、気持ちよく仕事を進めることができるでしょう。
ワークライフバランスの実現
自らの裁量で業務を進めることができるため、ワークライフバランスを実現することが可能です。勤務税理士時代は残業が多く家族との時間が作れなかったけれど、独立したことでお子さんとの時間が作れるようになったとの声もあります。
税理士が独立するデメリット
税理士として独立することには、収入が安定しない、責任が重い、労働基準法の適用外になるといったデメリットもあります。ここではそれぞれのデメリットについて詳しく解説していきます。
収入が安定しない
開業当初は個人事業主に近い形で働くことになるため、勤務時代と同じ年収を得られることは難しいと言われています。
利益が出るようになった後でも事務所の発展のために内部留保を確保したり、新たに人手を雇うための出費が増えるため、事務所運営が軌道に乗るまでは収入が安定しません。
責任が重い
独立後は事務所内で起こったすべての事柄の責任者が自分になります。
ときには辛い決断を迫られたり、答えの出ないことについても一人で抱えなければならなくなるため、心の負担は増すことを押さえておきましょう。
労働基準法の適用外になる
独立すれば、労働基準法の適用外となるため、ときには長時間労働が常態化することもあります。
特に格安で顧問を引き受けている場合はそれをカバーするために件数をこなさなければいけなくなるため、常に仕事に追われることになります。過度の労働は心身に悪影響を与えるばかりか、家族との団らんやスキルアップのための時間まで奪ってしまうことがあることを押さえておきましょう。
税理士が開業するまでに必要な手順
税理士として独立するには、いくつか必要となる手順があります。それぞれの手順をこなしていくことで開業を安全に進めることができるので、着実にこなしていくようにしましょう。
開業資金の確保
税理士として開業する際にはしっかりと開業資金を確保しておくことが欠かせません。開業当初から生活していけるだけの十分な顧問先数を確保するのは難しいので、ある程度の期間食べていけるだけの貯金をしておくようにしましょう。
税理士として開業する際に必要となる費用には以下のものが考えられます。
開業に必要な初期費用
税理士会の年会費 |
10~15万円 |
事務所の賃料 |
~80万円 |
パソコン周辺機器 |
10~20万円 |
業務用ソフトの購入費 |
製品やプランにより異なる |
広告など顧客獲得用の費用 |
~50万円 |
半年分の生活費 |
230~240万円 |
備品の購入費 |
10~15万円 |
なお、開業資金を確保するために日本政策金融公庫の「創業融資」を利用する場合は、創業計画書が必要となります。書き方は公式ホームページに記載されているので、確認しておくようにしましょう。
また、合わせて資金繰り計画書の提出が求められることもあるので、こちらも忘れずに準備しておくようにしましょう。
進出する地域の調査
資金の目途が立ち始めたら次は事務所を構える地域の入念な調査をしておきましょう。
税理士事務所の売上は顧問先数に比例するので、その地域に自分の見込み客がどれくらいいるのかを具体的に把握しておくことが欠かせません。ターゲットになる企業の立地や特徴なども押さえておけば、後で営業ルートを考える際の参考にもなるでしょう。
また、調査の際にはその地域に自分の競合となる事務所がどの程度いるのかも押さえておきましょう。
日本税理士会連合会の「税理士情報検索サイト」では地域の税理士を検索することができます。なかには主要取扱業務を公開している税理士もいるので、事務所の業務内容を考える際の参考にするのもおすすめです。
税理士会への届け出
税理士として開業する際には所属する税理士会への届け出が必要になります。届け出には変更登録申請書一式に加えて税理士事務所の設置に関する書類も必要となります。また、変更手数料として5千円かかることも押さえておきましょう。
業務用ソフトの購入
開業をする際は業務用ソフトを個人で用意する必要があります。
税理士事務所で使用するソフトには、パソコンにインストールして使用するオンプレミス型に加えてネット接続して使用するクラウド型のソフトも数多く販売されています。
クラウド型のソフトは買い切り型のオンプレミス型に比べると、月額料金がかかりますが、その分、定期的にアップデートをしてくれるので、常に最新の税法に対応した状態でソフトを使用できるというメリットがあります。
また、料金については機能面がシンプルなものの方が安くなる傾向がありますが、限定的な機能しか搭載していないものは対応できる業務範囲に限界があるというデメリットもあります。
将来的な業務の拡大を視野に入れるなら税務・会計・給与のオールジャンルに対応できるソフトを選ぶのが良いでしょう。
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開業までに準備すべきこと
開業前は開業後にができない事柄を中心にこなしていく必要があります。ここでは特に重要な2つのポイントを解説します。
ホームページの開設
顧問先からの問い合わせや人材募集に対応するためにはホームページを開設しておくと便利です。開業後は顧問先の獲得や仕事をこなしていくことに労力を割かなければいけないことを考慮すると、事前に準備しておくのが良いでしょう。
ホームページの作成は専門の業者やクラウドソーシングで外注することもできますが、最低でも20万円前後の費用がかかるうえ、定期的に機能や情報の更新が必要になります。
費用を節約するのであれば、自作するのが良いでしょう。
ただし、一からホームページを作るには簡単なプログラミングの知識やデザインのセンスなどが必要となります。必要になる時間と手間を考えれば、会計事務所専用のホームページ開設ツールを使用するのが最も効率的といえるでしょう。
独自サービスの開発
今後、数十年は事務所を経営していくなら独自サービスを開発することは一度は検討しておくべき大切な課題です。
今後はAIの普及に伴い、税理士事務所の主な収益源であった記帳代行などの業務は減少していくと予想されています。将来的に困らないためにも記帳代行に代わる収益の柱となってくれる独自サービスをいくつか考えておくようにしましょう。
開業後に実行すべきこと
税理士として開業すれば、主に営業周りの事柄に力を入れる必要があります。ここでは特に注力すべき2つの事柄を解説します。
友人や知人への挨拶
開業後ははがきや電話などで開業したことを友人や知人に知らせるようにしましょう。挨拶をしておくことで友人や知人が顧問先となってくれる可能性があるのはもちろん、ときには別の顧問先を紹介してくれるこもあります。可能であれば、直接会う機会も設け、どんな顧問先を探しているかや自分の得意な業務内容についても伝えておくようにしましょう。
他業種のセミナーや飲み会への参加
開業当初は地域での知名度が乏しいため、積極的に集まりの場に参加することも大切です。経営者が集まるセミナーや飲み会はもちろん、趣味の集まりの場にも顔を出しておくことでその地域の知名度を増すことができます。特に地方では意外なところが血縁や同級生として繋がっていることもあるため、集まりの参加への重要性が増します。
まとめ
独立した税理士が陥りがちな失敗には大きく分けて5つの種類があります。形は違えど、それぞれが事務所の存続にかかわる問題なので、事前に対処法をよく検討しておくようにしましょう。税理士として独立すれば、青天井の収入が得られる可能性がある一方、労働基準法の適用外となるなどのデメリットもあります。
開業を確実にするためにも事前の準備は入念にしておくようにしましょう。税理士として独立するには開業資金の確保や税理士会への届け出に加えて進出する地域の入念な調査が必要となります。合わせてHPの開設や独自サービスの開発などを行っておけば、開業後の集客にも役立ちます。