
税理士の懲戒処分の種類と流れ、令和4年度の変更点などを解説
税理士の懲戒処分は年間20〜50件程度行われており、そのほとんどが業務の禁止や停止といった重い処分です。万一のリスクを避けるためにも処分の詳細は押さえておくようにしましょう。ここでは、本年度の税制改正での変更点を踏まえ、税理士の懲戒処分の詳細を解説します。
目次[非表示]
懲戒処分の基本的な考え方と不正行為ごとの処分例
懲戒処分は税理士に対して重い処分を科すものであるため、国によって処分の基準と考え方が示されています。
平成20年3月31日財務省告示第104号で懲戒処分等の量定の判断要素及び範囲、処分の対象となる不正行為の例示などが示されており、国税庁の以下のページから内容を確認することができます。
出典:国税庁「1 税理士・税理士法人に対する懲戒処分等の考え方(平成27年4月1日以後にした不正行為に係る懲戒処分等に適用)」
また、上記のページでは、不正行為の類型ごとの量定が示されています。
出典:国税庁「3 税理士が遵守すべき税理士法上の義務等と懲戒処分 (1) 税理士の不正行為の類型ごとの量定等」
懲戒処分の種類
税理士に対する懲戒処分は税理士法第44条に基づき、以下の3種が設けられています。
①税理士業務の禁止
処分を受けた日から3年を経過するまで税理士登録が抹消され、税理士となる資格を失います。3つある処分のなかで最も重い処分に当たります。
②2年以内の税理士業務の停止
期間中、税理士業務を一切行うことを禁じる処分です。ただし、税理士登録は抹消されません。
③戒告
本人に対し、戒めを言い渡す処分です。処分としては最も軽いものに当たり、業務の制限や資格の停止などは行われません。
また、上記以外にも、日本税理士会連合会が会則第72条に定める訓告処分や税理士会が定める懲戒処分などもあります。
懲戒処分の年間件数
国税庁のホームページでは懲戒処分を受けた税理士・税理士法人を公表しています。平成29年以降は、年間20〜50件程度の個人・法人が処分を受けており、令和4年は7月7日時点で32件の処分が行われています。
処分の内訳としては、「2年以内の税理士業務の停止」が最も多く、それに「税理士業務の禁止」が続きます。「戒告」は平成29年以降、行われておらず、令和4年は32件すべてが「業務の停止」処分となっています。
懲戒処分の流れ
懲戒処分権者である財務大臣が懲戒処分の決定をする際は、まず、行政手続法に則り、処分の対象となる税理士又は税理士法人に対して懲戒処分予告通知が行われます。
次に、通知を受けた税理士又は税理士法人に、弁明書の提出や聴聞の機会が与えられます。
上記を受けて国税審議会による諮問や、懲罰審査委員会による審査などが行われ、税理士に対して、懲戒理由を付記した書面の通知が行われます。
なお、懲戒の効力は通知書が本人に送達された日から発生します。
より詳しくは、国税庁の下記サイト内の「問3-4 税理士や税理士法人に対する懲戒処分等は、どのような手続で行われるのですか。」の項目を確認してください。
出典:国税庁「3 税理士が遵守すべき税理士法上の義務等と懲戒処分」
懲戒処分を請求できる者
税理士法では税理士に懲戒されるべき事由があったときにそれを知った者が、懲戒処分権者である財務大臣に対し、適当な措置を求める手段が設けられています。
懲戒処分を請求できる者は税理士法第47条で以下の通り、定められています。
①地方公共団体の長
- 請求事由:税理士について、地方税に関し、脱税相談等をした場合又は一般の懲戒に該当する行為又は事実があると認めたとき
- 通知義務:通知するものとする
②税理士会
- 懲戒事由:会員について、脱税相談等をした場合又は一般の懲戒に該当する行為又は事実があると認めたとき
- 通知義務:所轄国税局長を経由して通知しなければならない
③何人も
- 懲戒事由:税理士について、脱税相談等をした場合又は一般の懲戒に該当する行為又は事実があると認めたとき
- 通知義務:通知し、適当な措置をとるべきことを求めることができる
令和4年度の税制改正に伴う変更点
令和4年度の税制改正では「税理士に対する信頼の向上を図るための環境整備」が方針の一つとして掲げられ、懲戒逃れをする税理士への対策強化が行われました。
この変更に伴い、これまで懲戒処分を逃れるために税理士登録の抹消を行っていた元税理士も処分の対象となることになります。
詳しくは下記のページから確認してください。
日本税理士会連合会「<国税庁からのお知らせ>税理士調査環境の改正について」
他資格で業務停止処分を受けた場合、税理士業務はできる?
税理士法第43条では、「税理士は、懲戒処分により、弁護士、外国法事務弁護士、公認会計士、弁理士、司法書士、行政書士若しくは社会保険労務士の業務を停止された場合又は不動産鑑定士の鑑定評価等業務を禁止された場合においては、その処分を受けている間、税理士業務を行つてはならない」と定められており、他資格で業務停止処分を受けている場合は、税理士業務を行うことはできません。
まとめ
懲戒処分は、税理士にとって重い処分を課すものであるため、国税庁によって処分の対象となる不正行為の例や量定の考え方などが示されています。平成29年以降は、年間20〜50件の個人・法人が処分を受けており、そのほとんどが税理士業務の禁止または停止処分を受けています。
処分を受けると、国税庁のホームページで氏名と処分内容が公表されるため、注意しましょう。