
税理士登録をする際に必要な実務経験を、日税連の公式ガイドに沿って解説
税理士登録をする際は、試験合格に加えて2年相当の実務経験を積むことが求められます。実務経験として認定されるには細かな決まりがあるため、内容を確認しておくことが大切です。ここでは日税連の公式情報をもとに、税理士登録に必要な実務経験の詳細と必要書類等について解説します。
税理士登録には試験合格に加えて、2年間の実務経験が必要
税理士として活動するには、税理士資格を有したうえで、日本税理士会連合会に備えてある税理士名簿に登録をする必要があります。
名簿の登録の際、税理士試験の合格又は税理士試験免除で獲得した者については、2年間の実務経験を積むことが条件として課されます。
実務経験については、税理士法で細かな決まりがあり、知らないまま申請をしてしまうと、条件の未達や書類の不備などの理由で申請を拒否される可能性があります。
そこで、ここからは日本税理士会連合会が公式HPで公表している「税理士登録の手引き」をもとに、税理士登録に必要な実務経験について詳しく解説をしていきます。
日本税理士会連合会「税理士登録の手引き(令和元年7月改正)」
税理士登録に必要な実務経験と業務内容
税理士登録をするためには、税務又は会計に関する事務に2年以上従事することが必要になります。この場合の2年とは、在籍期間を指すのではなく、通常の勤務時間の積上の合計時間である点に注意が必要です。
簡単に言えば、事務所に勤務してから2年経過するのが条件というわけではなく、実際に該当業務に従事していた時間の合計が2年相当(=3,696時間)となることが条件となります。
対象となる業務
実務経験として認められるのは税務又は会計に関する事務のうち、以下の業務です。ただし、該当分野の業務であっても「特別な判断を要しない機械的事務」については、対象外となるので、注意しましょう。
なお、勤務する場所については特に制限は設けられておらず、税務署などの官公庁や、銀行などの金融機関、事業会社でも問題ありません。
<租税に関する事務>
税務官公署における事務のほか、その他の官公署及び会社などにおける税務に関する事務。
<会計に関する事務で政令で定めるもの>
簿記の原則に従って会計帳簿等を記録し、その会計記録に基づいて決算を行い、財務諸表等を作成する過程において、簿記会計に関する知識を必要とする事務。
- 簿記上の取引について、簿記の原則に従い、取引仕訳を行う事務
- 仕訳帳等から各勘定への転記事務
- 元帳を整理し、日計表又は月計表を作成して、その記録の正否を判断する事務
- 決算手続に関する事務
- 財務諸表の作成に関する事務
- 帳簿組織を立案し、又は原始記録と帳簿記入の事項とを照合点検する事務
<特別な判断を要しない機械的事務>
簿記会計に関する知識がなくともできる単純な事務をいい、パソコンや電子計算機等を使用して行う単純な入力事務もこれに含まれる。
実務経験の計算方法
実務経験の計算をする際は、該当業務に従事していた時間を抽出し、積上げ計算を行います。
例えば、7時間の勤務時間のうち、税務又は会計に関する事務に5時間従事していた場合、申請をできるのは5時間ということになります。この時間の合計が2年相当の3,696時間以上となった時点で申請をすることができます。
実務経験の計算時には以下の制限があります。
- 一日の従事時間は7時間を限度とする
- 一月の従事時間は154時間(7時間×22日)を限度とする
- 2年相当の実務時間は3,696時間(154時間×24か月)とする
※上記の時間を超過した分については、勤務時間内の業務であったとしても、計算から除外されます。
実務経験の計算・申請をするときのポイント
実務経験の計算・申請をする際は、いくつか留意するべきポイントがあります。
複数個所での勤務時間を合算して申請できる
実務経験の計算をする際、一か所での実務経験で条件を満たせない場合は、複数個所での勤務時間を合算して実務経験期間とすることができます。派遣社員やパート、アルバイト等で複数個所に勤務している場合や正社員で転職を繰り返している場合等は、積上げ計算書を提出しましょう。ただし、無報酬での従事については計算に含めることができないので注意しましょう。
時間外勤務や休日勤務の時間を計算に含めることはできない
実務経験の積上げ計算をする際は、2年に満たない期間で2年相当の勤務時間が積みあがることを防ぐために、時間外勤務や休日勤務の時間を実務経験に含めることができない決まりになっています。申請時の審査では一部の勤務時間が認められない可能性があるため、日税連では余裕のある時間数での申請を推奨しています。
在籍証明書等の発行には時間がかかる
実務経験の申請書類のうち、在籍証明書などいくつかの書類については勤務先で発行をしてもらう必要があります。勤務先の状況次第では発行までに時間がかかることもあるため、できるだけ事前に依頼をしておくようにしましょう。目安として、申請をする数か月前に依頼をしておくのが良いでしょう。
実務経験の申請手続きに必要な書類
実務経験の登録をする際には、下記の書類の提出を求められます。書式が指定されている書類については、日税連の公式HPから印刷できます。
なお、申請手続きの詳細については以下の記事からご確認ください。
必須書類
- 在籍証明書:日税連所定の様式を使用し、勤務先の代表者からの証明書とすること。代表者が不在の場合や、勤務先が廃業・倒産している場合は、後述の「実務経験に関するよくある質問」を参照してください。
- 在籍証明書に係る印鑑登録証明書:申請書提出3か月以内に発行された在籍証明書に押印された印鑑の登録証明書を提出すること。勤務先の事情により印鑑登録証明書が発行できない場合は、「印鑑登録証明書が発行できない旨の事情説明書(在籍証明書の証明者が作成)」すること。
- 源泉徴収票または確定申告書のコピー:在籍証明書により証明した実務経験期間に係る源泉徴収票又は確定申告書のコピーを提出すること。現在の勤務先で実務経験を申請し、申請日現在の年度分を含めないと、実務経験期間が満たされない場合は、源泉徴収票の一人別台帳のコピー(余白に勤務先代表者の署名及び押印をすること)が必要になります。
場合により提出する書類
- 税理士事務所と会計法人の関係について:税理士事務所と税理士が主宰する会計法人に並行して勤務している場合、もしくは勤務している税理士事務所に会計事務所が併設してある場合、あるいは勤務している会計法人に税理士事務所が併設してある場合に提出を求められます。日税連のHPから所定の様式をDLして使用すること。勤務先が税理士法人の場合は、「税理士法人と会計法人の関係について」を使用すること。
- 職務概要説明書:会計業務と他の業務を兼任、または別の会社に並行勤務している等の場合に提出を求められます。書式は自由であり、従事していた業務内容及び、業務に占める経理業務の詳細を記載し、代表者の署名及び押印をもらい、あわせて、会社の組織図を提出すること。
- 勤務時間の積上げ計算書:パート・アルバイト、派遣社員等で勤務していた場合や、正社員であっても勤務時間を短縮している場合等に提出を求められます。作成の際は、日税連のHPで公開されている指定の様式もしくは、日税連が指示する様式を使用します。あわせて、タイムカードのコピー又は、出勤簿のコピー(出退勤の時間が明示されたもの)、もしくは給与支払い台帳のコピー等(代表者の署名・押印があるもの)の提出が必要になります。
- 大学院通学状況説明書:実務経験として申請した会社等の勤務期間と並行して大学院に通学していた場合に提出を求められます。作成の際は、日税連のHPで公開されている指定の様式もしくは、日税連が指示する様式を使用します。あわせて、受講していた講義に印を付けたカリキュラム及び成績証明書の提出が必要になります。
上記の他、日税連が必要と判断した書類の提出を求められることがあります。日税連では、書類の提出をする前に、事前相談をするように呼び掛けています。書類に不備があると、再提出をすることになるので、必ず相談をしておくようにしましょう。
実務経験に関するよくある質問
実務経験の申請をする際にネックとなりがちな項目をいくつか解説をします。
無報酬での従事は実務経験に含まれるか
基本的に対価の伴わない従事は実務経験として認められません。
公認会計士や弁護士が税理士登録をする場合、実務経験は必要?
実務経験が必要となるのは、税理士試験に合格した者、または、税理士試験を免除された者とされており、公認会計士・弁護士が税理士登録を行う際は、実務経験は求められません。
勤務先が倒産しており、在籍証明書が入手できない場合
勤務先が廃業・倒産した当時の代表者または勤務していたときの代表者が証明者となり、実務経験期間を証明することになります。以下の書類を提出します。
- 在籍証明書(印鑑は証明書の実印を用いること)
- 印鑑登録証明書(在籍証明書に押印したもの)
- 源泉徴収票又は確定申告書のコピー
- 勤務していた会社の閉鎖事項証明書
税理士事務所と会計法人の両方に勤務している場合
税理士事務所に勤務する傍ら、税理士が主宰する会計法人にも並行して勤務しており、その期間の勤務実績を勤務実績とする場合は、給与の支給の有無にかかわらず、以下の書類が必要になります。
- 税理士事務所と会計法人それぞれの在籍証明書
- 税理士事務所と会計法人の関係について
- 税理士法人及び会計法人の登記事項証明書(履歴事項全部証明書)
- 会計法人の株主名簿
→代表者の署名・押印があり、出資者及び出資比率がわかるものであること。
勤務していた事務所の代表者が、死亡・所在不明等となった場合の実務経験期間の証明について
勤務していた当時に同勤していた者により実務経験期間を証明することになります。具体的には、以下の書類の提出が必要になります。
- 在籍証明書(証明者は当時の同勤者とし、印鑑は同勤者の実印とすること)
- 印鑑登録証明書
- 同勤者の社会保険加入記録照会票
- 証明者と本来証明すべき者及び申請者との関係説明書
- 本来証明すべき者が証明できない事情及び他の者が証明者となりうる事情説明書
- 申請者の源泉徴収票又は、確定申告書のコピー
- 申請者の社会保険加入記録照会票
まとめ
税理士登録の実務経験を申請する際は、業務内容と従事した時間数が条件を満たしているのかをよく確認しておく必要があります。日税連では、3,696時間丁度の申請では受理されない可能性があると回答しているため、できるだけ余裕をもった時間数で申請するようにしましょう。
また、申請書類を準備する際、在籍証明書などのように勤務先で対応してもらう必要のある書類については、勤務先の状況次第で発行に時間がかかることもあります。発行までには数か月かかることもあり得るため、できるだけ早めに依頼しておくようにしましょう。